大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

鹿児島簡易裁判所 昭和31年(ハ)322号 判決

原告

右代表者法務大臣

中村梅吉

右指定代理人福岡法務局訟務部長

今井文雄

右指定代理人法務事務官

宮田茂春

鹿児島市洲崎町二十一番地

被告

山田正則

右当事者間の昭和三十一年(ハ)第三二二号売掛代金請求事件につき当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告国指定代理人は、被告は原告に対し金五万六千四百七十九円及び之に対する昭和三十年七月六日より完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え、訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、

その請求原因として、

(一)  鹿児島市泉町八番地訴外株式会社丸二商会は、昭和三十年六月二十八日現在に於て、同二十九年分物品税金四十八万二千三百六十円と之に対する利子税、延滞加算税を滞納していた。

(二)  右訴外会社は被告に対し昭和三十年六月二十八日現在に於て弁済期の到来した売掛代金十四万六千四百七十九円を有していた。

(三)  鹿児島税務署収税官吏は同年同月同日、国税徴収法第十条及び第二十三条の一第一項に基き前項記載の債権を差し押え、同日之を被告に通知し、同年七月五日までに支払うよう請求した。

(四)  その後被告は内金九万円を支払つたのみで、その余の支払をしないし、亦前記訴外会社も前記滞納税を納付しないので、右支払を求める為め本訴に及んだ旨陳述し、尚、(1)訴外会社の帳簿は、被告の販売外交員時代に於ても、被告扱として単に取扱商品の数量とその売上額及び受入金額を記載してあるだけで、会社は取引先及び販売の内訳を具体的に把握しておらず、また被告にその明細な報告を求めもせず、凡て被告に対する売掛金として処理している事実、(2)販売外交員時代も請負制時代も、会社の帳簿の記載の態様に変更がなく、その切換時である昭和二十九年六月に何等の清算がなされていない事実、(3)同三十年八月二十五日に至り、会社は被告に対する八万七千九百六円の債権を免除し、之を貸倒金としている事実、(4)会社は右債権の免除後に始めて、被告の外交員時代の売掛金の回収の為め売掛金集金帳(乙第一号証)なるものを作成し売掛先を調査して債権の回収に自ら着手した事実、以上の事実により、販売外交員時代、請負制時代を通じ、被告を介して他に販売した会社の商品の代金については被告はその代金を自ら会社に支払う義務があつたことは明白であると附陳し、

証拠として、甲第一乃至第五号証(内第二号証は、一、二、三)を提出し、証人高田泰の訊問を求め、乙号各証は不知と述べた。被告は主文同旨の判決を求め、

答弁として、

請求原因事実の(一)の中、訴外株式会社丸二商会が昭和二十九年分物品税と之に対する利子税延滞加算税を滞納していることは認めるがその金額は不知、昭和三十年六月二十八日現在に於て、被告が、訴外会社に対し負担していた債務は金五万八千五百七拾参円に過ず、原告主張のその他の金八万七千九百六円は前記訴外会社の訴外岡元商店外五十四名に対する売掛代金債権であり、第三者たる被告は同会社に対して之を支払うべき義務はない、(三)の点は認める、(四)の中被告が九万円支払つた点は否認する、同三十年八月二十五日右訴外会社に対し前記五万八千五百七拾参円を支払つた事実はあると陳述し、

証拠として、乙第一乃至第三十三号証を提出し、証人田中忠義の尋問を求め、甲号各証の成立を認めた。

理由

訴外株式会社丸二商会の昭和二十九年分物品税の滞納金額の点を暫く措き、昭和三十年六月二十八日現在における同訴外会社の被告に対する売掛代金債権につき判断するに、両名の間に弁済期の到来した金五万八千五百七拾参円の売掛代金の未収金があつたことは当事者間に争がない。

原告はその外にも、被告は同訴外会社に対し金八万七千九百六円の売掛代金債務を有する旨主張し、被告は、それは同訴外会社の訴外岡元商店外五十四名に対する売掛代金債権であると抗争するので検討する。

証人田中忠義の証言並びに同証言に依り成立の認められる乙第一乃至第二十号証、第三十三号証に依ると寧ろ被告主張のように、右債権は訴外岡元商店外五十四名に対する代金債権である事実が窺われる。即ち、

被告は、昭和二十九年六月頃より前記会社の商品を卸で買つて小売販売するに至る迄は、右会社の販売外交員として雇われて商品の販売、集金等に従事していたが、その取引先である隼人町真考所在の岡元商店外五十四箇所に売り付けた会社の商品の未収金を会社は被告の負債として置いたことがあるが、それは単に被告に責任を持たして取り立てさせる目的で、会社内部の経理操作上被告の債務として記帳していたに過ぎず、その他債務の引受をなさせた事実もなく、債権は飽く迄前記訴外商店等のみに対するものであり、従つて会社自ら右商店等から取り立てることが出来ることは勿論、被告は帳簿の記載に拘らず、右商店等に代り又は之と重畳して何等債務を負担するものでないことが認められ、それが金額にして八万七千七百六円となつていたことが明白である。

原告の主張に符合する甲第二号証の一、二、三は右認定に照し直ちに信用し難く、甲第一、第二、第五号証、証人高田泰の証言に依るも未だ原告の主張事実を立証するに足らず、他に右認定を覆して原告の主張を肯認する資料はない。

被告が前記訴外会社に対する売掛代金五万八千五百七拾参円を昭和三十年八月二十五日頃同会社を通じ国税として納付したことは当事者間に争がない。

従つて原告が訴外会社に代つて被告より取り立てるべき売掛代金債権は最早毫も存在しないわけである。

仍つて右訴外会社が被告に対し売掛代金拾四万六千四百七拾九円の債権を有することを前提とし一部弁済後の残金の支払を求める原告の本訴請求は、その余の点について判断する迄もなく失当として排斥し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のように判決する。

(裁判官 田畑常彦)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例